バルセロナの市場と仕事の共通点。混沌(カオス)を活かす力とは?

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スペイン、バルセロナの心臓部。ランブラス通りに面した「ボケリア市場」に一歩足を踏み入れた瞬間、私の視覚と聴覚、そして嗅覚は一気に飽和状態になりました。

天井から吊るされた巨大な生ハムの原木、見たこともない鮮やかな色のスパイスが山積みになった露店、威勢のいい声で客を呼び込む店主たち、そしてそれらを縫うように歩く多国籍な観光客。そこにあるのは、完璧な整理整頓とは無縁の、圧倒的な「混沌(カオス)」です。

日本で仕事をしていると、私たちはどうしても「整えること」に心血を注ぎがちです。プロジェクトの進捗表は美しく整理され、デスクの上は片付き、会議は予定されたアジェンダに沿って進行する。しかし、このバルセロナの市場を歩いていると、ふとした疑問が湧き上がってきます。

「整いすぎた環境は、かえって生命力を削いでいないだろうか?」

この市場の面白さは、整然としているからではなく、むしろ「次に何が飛び出してくるか分からない」という予測不能なエネルギーにあります。実は、ビジネスやクリエイティブな現場におけるアイデアの創出も、この市場のダイナミズムに酷似しているのです。

最先端のイノベーションが生まれる場所を観察すると、そこには必ずといっていいほど「良質なカオス」が存在します。異なる専門分野の人々が入り乱れ、計画外の雑談が交わされ、目的の定ま

バルセロナの市場が放つエネルギーの正体は、個々の店主たちが持つ「圧倒的な主体性」のぶつかり合いにあります。彼らはマニュアルに従って動いているのではなく、その日の仕入れ、その日の気温、そして目の前の客の表情に合わせて、自分の領土を刻一刻とカスタマイズしています。

この「自律的な個の集合体」こそが、現代のクリエイティブな組織が目指すべき理想像ではないでしょうか。

私たちが目指すべきは、全員が同じ方向を向く軍隊のような組織ではなく、それぞれが独自の色彩を放ちながら一つの熱狂を作り出す、この市場のようなコミュニティです。そこでは、以下の3つの要素が複雑に絡み合っています。

🚩 混沌を活かす「市場型ワークスタイル」の3要素

  • 境界線の曖昧さ:自分の担当範囲を決めすぎず、隣の領域に少しだけ越境してみることで、新しいコラボレーションが生まれる。
  • 即興性の重視:完璧な資料を準備するよりも、その場の空気感や直感から生まれる「生きた言葉」を交換する。
  • 五感のフル活用:論理(ロジック)だけで判断せず、手触り、音、熱量といった、数値化できない情報を大切にする。

市場を歩いていると、山積みになった真っ赤なトマトの横で、銀色に光るイワシが並び、その奥からエスプレッソの芳醇な香りが漂ってくる……そんな光景に出会います。一見すると無秩序ですが、この「五感の刺激の同時多発」が、脳の深層部を刺激し、論理的思考だけでは到達できない「発想の跳躍」を引き起こすのです。

私が描いた『発想地図』には、バルセロナの路地で拾った言葉がいくつか書き込まれました。

「整理は過去を固定し、混沌は未来を連れてくる」

もし、あなたの今の仕事が行き詰まっていると感じるなら、それは整理整頓が進みすぎているサインかもしれません。あえて机の上を少し散らかしてみる、全く関係のない分野の人とランチをしてみる、あるいは、普段なら絶対に選ばないルートで帰宅してみる。

そうして生まれた小さな「ノイズ」が、やがてあなたのビジネスや人生を突き動かす大きなエネルギーに変わっていきます。

バルセロナの市場を去るとき、私はカオスを愛することを誓いました。不確実で、騒がしくて、予測不能なもの。それらは私たちを疲れさせますが、同時に、私たちが「生きている」ことを最も強く実感させてくれるものでもあるからです。

次回の旅では、この興奮から一転し、静寂の中に深く潜ります。「雨の日の海辺で考えた、『何もしない時間』という名の贅沢」。動(カオス)のあとに来る静(空白)が、思考にどんな深みをもたらすのか。その軌跡を共に辿っていきましょう。

さらに、ボケリア市場で私が最も衝撃を受けたのは、店主たちの「編集力」でした。彼らは単にモノを売っているのではありません。山積みの野菜の中に、あえて補色の関係にある果物を置く。その「あえての違和感」が、通り過ぎる客の足を止め、会話を生み出し、価値を創出しているのです。

これは、現代の企画職やクリエイターが最も必要としているスキルそのものです。

🚩 混沌を価値に変える「マッピー流・編集の視点」

  • 「違和感」をインデックスする 市場を歩くとき、私は「なぜこれがここに?」という違和感を探します。仕事でも同様に、日常の当たり前の中に潜む「おかしなこと」をノートの隅に書き留める。それが後に発想地図の重要な起点になります。
  • 「正解」を疑い「面白さ」を優先する スーパーマーケット(管理型組織)は正解を求めますが、市場(創造型組織)は面白さを求めます。正しいか間違っているかよりも、それを混ぜたときにワクワクするかどうか。その「遊び」の感覚こそが、停滞したプロジェクトに風穴を開けます。
  • 「未完成」の美学 市場の棚は、客がモノを手に取るたびに形を変え、常に未完成です。私たちの仕事も、最初から100点の完成品を目指すのではなく、60点の「混沌」を世に問い、周囲の反応を取り込みながら形を変えていく。そのライブ感こそが、人を惹きつけるのです。

ボケリア市場の雑踏のなかで、私はある年老いた店主に「なぜこんなに賑やかなんだ?」と尋ねました。彼は笑いながら、シワの刻まれた指で市場全体を指し示しました。 「ここは生きているからさ。命は、静かには流れないだろう?」

その言葉は、私の発想地図のど真ん中に、深く力強く書き込まれました。

私たちは、効率や管理という名のもとに、自分の仕事や人生から「命のざわめき」を奪っていないでしょうか。 静かで整然としたオフィスも必要ですが、ときにはバルセロナの市場のような、騒がしくも温かい混沌を、あえて自分の領域に招き入れてみてください。

そこから生まれるアイデアは、誰にも予測できないほど鮮やかで、そして何よりも「生きている」実感をあなたに与えてくれるはずです。